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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(あ)341号 判決 1984年4月27日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人出口秀夫の上告趣意は、事実誤認の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

被告人出口秀夫の弁護人真鍋正一、同田原睦夫の上告趣意第一点のうち、刑法一九九条に死刑を定めたことの違憲(憲法一三条、三六条)をいう点は、殺人罪を犯した者に対し死刑を科することを認めた刑法一九九条が憲法一三条、三六条に違反しないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和二六年(あ)第三一〇四号同二七年一月二三日大法廷判決・刑集六巻一号一〇四頁)の趣旨とするところであるから、所論は理由がなく、その余は、実質は量刑不当の主張であって、適法な上告理由にあたらない。同第二点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であり、同第三点は、量刑不当の主張であって、いずれも適法な上告理由にあたらない。

被告人坂口徹の上告趣意は、事実誤認、量刑不当の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

被告人坂口徹の弁護人東畠敏明、同宮本清司の上告趣意第一点のうち、刑法一九九条に死刑を設けたことは憲法三六条に違反するから、本件につき死刑の適用を認めた原判決には同条の解釈に誤りがある旨主張する点は、当裁判所の前掲判例に徴し理由がなく、刑法一一条一項が死刑の執行方法として絞首を規定しているのは憲法三六条に違反する旨主張する点は、絞首刑が憲法三六条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和二六年(れ)第二五一八号同三〇年四月六日大法廷判決・刑集九巻四号六六三頁)とするところであって、所論は理由がない。同第二点は、判例違反をいうが、原判断は所論引用の判例に反する判断をしたものとは認められないから、所論は理由がない。同第三点及び第四点は、単なる法令違反の主張であり、同第五点は、事実誤認の主張であり、同第六点は、量刑不当の主張であって、いずれも適法な上告理由にあたらない。

また、記録を調査しても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。(本件は、被告人両名が、金銭欲から、被告人出口の勤務先の会社幹部を殺害して死体を遺棄し、同幹部が金員を拐帯して失踪したように偽装し、同会社の小切手を使って取引銀行から大金を引出そうと企て、短期間内に会社の上司二名を次々に殺害し、その死体を埋立地に遺棄したという事案であって、その動機に酌量の余地はなく、結果は重大である。また、犯行前幾度となく協議が重ねられて綿密に計画が練られ、周到に準備されて行われた犯行である。犯行の態様も、被告人出口を信用した被害者らを言葉巧みに誘って自動車に乗せ、車内で後ろから襲い、必死に抵抗しあるいは命乞いをする被害者らを二人がかりで絞殺し、その後死体を車のトランクに詰めて埋立地に運び穴を掘って埋めたというものであって、冷酷極まるものである。被害者両名は、それぞれ一家の支柱として生活を支えていたところ、なんらの落度もなくして思いもかけぬ非業の死を遂げるに至ったもので、遺族らに与えた衝撃は大きく、その被害感情も深刻である。また、被害者らの勤務関係者をはじめとして一般市民を不安に陥れ、社会に与えた影響も甚大である。被告人両名の役割については、犯行のそもそもの発端は被告人出口が言い出したことにあるとはいえ、被告人坂口も積極的に犯行の計画、実現に加功しており、両名の責任に軽重の差を見出すことはできないといわなければならない。以上、犯行の罪質、動機、計画性、態様、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響等に照らすと、被告人両名が現在では犯した罪の重大さを知り深く反省していることを考慮しても、被告人両名の罪責はまことに重大であり、原判決の維持した第一審判決の被告人両名に対する死刑の科刑は、当裁判所も是認せざるをえない。)

よって、同法四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧 圭次 裁判官 木下忠良 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 宮崎梧一 裁判官 大橋 進)

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